人の意見を取り入れるための技術を持っておこう

シンプル思考は、きわめてシンプル。恋人が部屋に来る時間が迫り、やりたかった掃除をしている時間がないのなら、悩むことなく「掃除はしない」と決める。きわめて単純です。

しかしこれは、「自分は誰が来ても掃除をしない主義」といったものに持ち上げてはいけません。たまたま掃除をしなくても、恋人に満足してもらえたからといって、その原因は掃除をしなかったことではないのです。掃除ができないなりに、別のことに時間を割いた結果ですし、そのために知恵を絞った結果です。また、恋人も掃除をしていないかもしれないことに気づいたものの、はじめての訪問なので、大目に見ただけかもしれません。

シンプル思考の達人になっても、守る点としては「人の意見はきちんと聞く」ことです。シンプル思考で得た結論は「これしかない」というぐらいシンプルなものになっています。「顧客満足を最大化する」と言ってしまうと、その言葉に対しては誰も反論できなくなります。なぜなら、顧客満足を最大化することは、とてもいいことだと全員が認識しているからです。

このように、誰の目にもいいこと、賛成するしかない結論にシンプル思考はなりやすいのです。だからといって、これを主義であるとか絶対的なルールと考えてはいけません。なぜなら、顧客満足を最大化することによって、利益を最大化するとか、売り上げを最大化するとか、業界内で満足度ナンバーワンになるといった目的があるはずだからです。

恋人に満足してもらうのは、できれば自分のことをさらに気に入ってもらい、末永く一緒に暮らせるようなポジション(結婚とか)に辿り着きたいからです。それは社会的に唯一のパートナーとなることを意味しています。パートナーとしてふさわしい存在として認めてもらうことが目的なのですから、「掃除をしない主義」など主張している場合ではないことは明らかです。

ですが、私たちはときどき、これを勘違いしやすいのです。シンプル思考で小さな成功を得たときに、その成功体験にしがみつく人がいます。するとなにが起きるか。次の問題にも、成功体験と同じ方法で突破しようとしてしまうのです。問題が違えば、解決方法も違います。そして最終目的を達するためには、その問題も解決しなければなりません。

プレッシャーがあり、成功体験がある。こういうときほど、自分のやり方に固執しやすいのです。「解決しなければならない、自分にはできるはずだ」だけでは、失敗しやすくなるのです。

このときに大切なのは人の意見です。最初は成功しました。次の問題は失敗するかもしれません。どういうアプローチをすればいいのか、アドバイスを受けたり、意見をきくことです。それによって、自分の凝り固まった頭を切り替えていかなければなりません。

よくスポーツマンたちが「今日の勝利は今日のこととして喜び、明日はまた気持ちを切り替えて臨みます」といったコメントを残します。コーチたちは、口を酸っぱくして、選手にそのことを学んでほしいと思っています。

この切り替えができないと、間違いやすいのです。シンプル思考は、自分の考え方が絶対正しいと信じることではありません。とてもシンプルに考えるので、「顧客満足を最大化する」でいいのですが、「じゃあ、どうする?」とみんなに聞くべきです。

人の話を聞くこと、意見を引き出し、取り入れることは、技術なのですから、意識をすれば磨くことができます。漫然と意見を聞くのではなく、よりよく活かせるように日頃からコミュニケーションに関心を持つといいでしょう。