大雑把な対処や度胸で「エイヤッ」とやってはいけません

シンプル思考についての大きな誤解のひとつとして、「なんでもかんでも単純化して、エイヤッとやっつける」的なものだと考えている人もいるようです。たしかにそれも必ずしも悪いことではありません。ただ、歩留まりが悪い。当たって砕けろとやっても、砕けてばかりでは、めげてしまい、勇気も資力も仲間の支援も失われていきます。

つまりシンプル思考は、単純化してあとは度胸でとにかく行動、といった方法とは違うのです。そのことだけはわかっていただきたいのです。シンプル思考のよさは、「誰に語ってもシンプルなので理解されやすい」という点。つまり支援を得られやすい。そして「シンプルなので忘れない、間違えない」という点。余計なことに引きずられて脇道に入り込むことが少ないのです。さらに一番のメリットは、「シンプル思考は誰よりも早く目的地に到達できる」という点です。

だったら、「エイヤッ」ととにかく行動するのと変わらないじゃないか、と思われるかもしれません。そうではありません。「誰よりも早く行動に移せる」と言ったのであって、この時間軸を「すぐ行動に移せる」と解釈してしまうと、間違いやすいのです。

いまの時代、どんなアイデアも、独創的なものはあまりないのです。世界中、どこかで誰かが、または過去の誰かが、同じことを考えています。その中には、資金や環境が整わず、実現しなかったケースも多いでしょう。その意味で、「すぐ行動」は危険です。同じことを繰り返す可能性が高いからです。

ですが、石橋を叩いて渡るようなことをしていたら、あなたが石橋を叩いている音を聞いて、あとから人が渡ってしまう可能性が高い。これも事実。なにしろ、SNSをはじめとしてネット社会ではあっという間に情報が世界に伝わってしまうのです。

では、どうするか。誰よりも早く目的地に到達すればいいのであって、すぐ行動すればいいわけではありません。シンプル思考はこのとき、多いに役に立ちます。複雑なままにしておくと、理解されにくく、目標も明確になりにくく、曖昧な部分が多すぎて、チームがバラバラになりやすい。個人でやる場合でも、ブレが生じやすいのです。ブレていると、いくら素早く行動しても、ゴールに辿り着くのは遅くなります。これでは目的は達成できません。

たとえば漠然と「思考法を変えよう」と思って、参考書を購入するのと、「シンプル思考に変えよう」と思って参考書を購入するのとでは、明らかに参考書は違ってきますし、ゴールに辿り着くスピードも違ってきます。似たような行動を「よーい、ドン」ではじめても、ゴールインするときには大きな差が出ているのです。

そのために、シンプル思考は、明確にすること。わかりやすくすること。大きな問題を小さな問題に置き換えることがコツになってきます。

「思考法を変えよう」では世の中にどんな思考法があるのか、代表的なものはなにか、いま話題のものはなにか、自分の目的に適したものはなにか、といったことを探っていかなければなりません。網羅性があるので、「思考法」を研究して発表するときには、これしか方法はないかもしれません。

でも、自分の思考法をよりよくしようと考えたのなら、これは遠回り。わかりにくいのです。より明確にする。「もっとスッキリ思考をできたら」という観点から思考法をザックリ選んで、「シンプル思考法ってのがあるな、これかな」と思ったらそこに向かって行動する。ちょうど、空の高いところから、獲物を探す鷹のようなものです。見つけたら、まっしぐらですが、なんでもかんでも狙うわけではありません。